課題
この支援先は年間100名以上を採用する成長企業で、人事チームは応募書類の選考に月100時間以上をかけていました。この種の業務では、職種ごとに求める経験やスキルが違う中で、履歴書と職務経歴書を1通ずつ読んで、求める条件に合うかを見ていく、という作業になりがちです。
応募が増えるほど、書類を読む時間が人事チームの時間の多くを占めます。また、読む人によって見るところが違うと、同じ職種でも評価にばらつきが出やすくなります。
作った仕組みと画面イメージ
作った仕組み
- 職種別の評価基準 — 職種ごとに、求める経験やスキルを評価基準として定義する
- 書類の整理と点数化 — 履歴書・職務経歴書を、AIが評価基準に沿って整理し、点数を付ける
- 候補者の要約と面接の質問 — 有望な候補者の要約と、面接で確認する質問をAIが作る
合否を決めるのは人事の担当者です。AIの点数と要約は、判断の材料として使います。

AIが出した書類の整理(例)
1人分の書類を評価基準に沿って整理すると、次のような一覧になります。基準ごとに、書類のどの記述を根拠にしたかと、面接で確かめることを並べます。
表は横にスクロールできます
| 評価基準(法人営業の例) | AIが書類から整理した内容(例) | 面接で確認する質問(例) |
|---|---|---|
| 法人営業の経験 | 法人向けの営業を約5年。中小企業の新規開拓が中心 | 新規開拓で、最初の接点をどう作っていたか |
| 提案の規模 | 年間契約の提案の経験あり。金額の記載なし | 担当した提案の規模と、自分が担った範囲 |
| 数字の管理 | 営業目標と達成の状況を、表で管理していた記載あり | 目標に届かない月に、何を変えたか |
| チームでの役割 | 後輩2名の育成を担当 | 育成で工夫したこと |
| 新しい商材への対応 | 記載なし(「経験がない」とは判断しない) | 新しい商材を覚えるときの進め方 |
※架空の応募書類を例にした一覧です。合否は人が判断します。
基準ごとに根拠の引用が付いていると、担当者は書類のどこを読めばよいかが分かり、点数に納得できないときも理由をたどれます。記載のない項目は「記載なし」と分けて示し、面接で確かめる質問に回します。面接の質問は、点数の低い項目だけでなく、点数の高い項目の裏づけを取るためにも使います。
データの流れ(入力・AI・人の分担)
表は横にスクロールできます
| 段階と入力 | AIがやること | 人がやること |
|---|---|---|
| 基準づくり入力: 職種ごとの業務内容と求める経験・スキル | なし | 職務に関係する項目だけで、評価基準を定義する |
| 整理と点数化入力: 履歴書・職務経歴書のテキスト | 評価基準に沿って整理し、点数と理由を書く | 点数の理由を確かめる |
| 要約と質問入力: 整理の結果 | 有望な候補者の要約と、面接で確認する質問を作る | 質問を選び、面接の準備をする |
| 判断入力: AIの整理と応募書類 | 判断しない | 書類を読んで合否を決める |
※ 人の分担は、この種の仕組みでの一般的な例です。
効果
書類選考にかかる工数は、約60%減りました。
※効果は業務内容・体制により異なります。
公正な採用選考のための注意
採用では、AIに合否を決めさせず、最終判断は人が行うことを前提にします。厚生労働省は公正な採用選考の基本として、応募者の基本的人権を尊重すること、応募者の適性・能力に基づいた基準で行うことを挙げています。AIに渡す評価基準には職務に関係する項目だけを入れ、点数の理由をAIに書かせて人が確かめられるようにします。応募書類は個人情報のため、使うAIサービスの契約内容も確認しておきます。
つまずきやすい点
- 過去の採用の結果をそのまま例としてAIに渡すと、過去の選考の偏りを引き継ぐおそれがあります。評価基準は、職務に必要な経験とスキルから組み立てます。
- 点数だけを見て書類を読まなくなると、基準に入っていない強みを見落とします。点数は判断の材料にとどめ、判断は書類と面接で行います。
- 書類の書き方は人によって違います。記載がないことを「経験がない」と決めつけず、面接で確かめる質問に回します。
- 職種が変われば、評価基準も変わります。新しい職種の募集を始めるときは、基準を作り直してからAIに渡します。
- AIに渡すのは選考に必要な項目だけにし、選考が終わった書類の保存期間と、見られる人を社内で決めておきます。
自社で始めるなら最初の一歩
最初は、実際の応募書類を使わずに、評価基準を言葉にするところから始めます。基準が言葉になれば、AIに渡せるだけでなく、担当者どうしで見るところをそろえる材料にもなります。
- 募集中の職種を1つ選び、求める経験・スキルを5項目ほどの評価基準として書き出す
- 架空の職務経歴書を数通用意し(AIに作らせてもかまいません)、基準に沿って整理させる
- 担当者が読んだときの見立てと比べ、基準の言葉が足りない点と、人が確かめるべき点を直す
担当者より
この支援で最も気を配ったのは、AIの役割を「合否を決めること」ではなく、「書類を整理して、人の判断を助けること」に置くことでした。採用は、応募者の人生にかかわる判断です。点数はあくまで材料で、合否を決めるのは人事の担当者です。
評価基準を職種ごとに言葉にする作業には、手間がかかります。それでも、基準が言葉になればAIに渡せるだけでなく、読む人による見方の違いもそろえやすくなります。評価基準に職務に関係する項目だけを入れることは、公正な選考の基本でもあります。仕組みづくりの前に、基準づくりに時間をかける価値があると考えています。
株式会社クロスタ 担当コンサルタント