課題
この支援先では、月末月初に、経費精算、届いた請求書のチェック、会計ソフトへのデータ入力が集中していました。経理担当2名で、この作業に月60時間以上かけていました。
請求書は取引先ごとに書式が違います。この種の業務では、1枚ずつ開いて取引先・金額・内容を確かめ、勘定科目を判断して入力する、という作業になりがちです。手作業では、金額の桁の読み違いや、同じ内容の請求に気づかず二重に処理してしまうといった誤りも起こりえます。月末月初に作業が集中すると、予算管理や財務分析のような業務に時間を割きにくくなります。
作った仕組みと画面イメージ
作った仕組み
- 請求書の読み取り — 請求書のPDFをAIで読み取り、勘定科目・金額・取引先を抽出する
- 会計ソフトへの取り込み — 読み取った内容を、会計ソフトへ自動で取り込む流れにする
- 異常値のアラート — 金額の桁違いや二重請求などの異常値に、AIがアラートを出す
画面は次のようなイメージです。読み取った請求書が一覧になり、アラートの付いたものが先頭に並びます。アラートには、何がおかしいかと、そう判断した理由を添えます。

AIが出したアラートの一覧(例)
アラートは、「何がおかしいか」と「なぜそう判断したか」をセットで出すと、経理担当がすぐに確かめられます。下は、アラートの出し方を示す例です。
表は横にスクロールできます
| アラートの種類 | AIが出した内容(例) | 人の対応 |
|---|---|---|
| 金額の桁違い | 通信業A社の請求が385,000円。過去12ヶ月は36,300〜38,500円 | 請求書の原本を見て、正しい金額を確かめる。必要なら取引先に問い合わせる |
| 二重請求の疑い | 清掃業B社から、同じ請求番号・同じ金額の請求書が2通 | 再発行か二重の請求かを確かめ、片方を取り込まない |
| 定額の請求の変化 | 毎月同じ金額の保守業C社の請求が、今月は1.5倍 | 契約の変更があったかを、担当の部署に確かめる |
| 読み取れない項目 | 印刷業D社の請求書で、金額の欄が読み取れない | 原本を見て手で入力する |
| 初めての取引先 | 運送業E社は過去の取引がなく、勘定科目の候補を出せない | 取引の内容を確かめて科目を決める |
※架空の請求書を例にした一覧です。どの条件でアラートを出すかは、取引の実態に合わせて決めます。
アラートの条件は、最初から細かく決めすぎないほうが扱いやすくなります。桁違いや二重請求のように、見落とすとお金に直結するものから始め、人が実際に直した内容を見ながら、条件を足したり緩めたりしていきます。
データの流れ(入力・AI・人の分担)
表は横にスクロールできます
| 段階と入力 | 仕組み・AIがやること | 人がやること |
|---|---|---|
| 読み取り入力: 請求書のPDF | 勘定科目・金額・取引先を抽出する | 読み取りの結果を確かめる |
| 異常の検知入力: 読み取った内容と過去の請求 | 金額の桁違いや二重請求などにアラートを出す | アラートの理由を確かめ、対応を決める |
| 取り込み入力: 読み取って確かめた内容 | 会計ソフトへ自動で取り込む | なし(自動) |
※ 人の分担は、この種の仕組みでの一般的な例です。
請求書の確認から仕訳の下書きまでの流れは、当社の経理の業務デモでも試せます。判断に迷うものだけを理由つきで人に回す、という考え方はこの事例と同じです。
効果
月60時間以上かかっていた作業は、月12時間(約8割減)になりました。経理担当は、空いた時間を予算管理や財務分析に割けるようになっています。
※効果は業務内容・体制により異なります。
つまずきやすい点・注意点
- AIの読み取りには誤りが起こりえます。金額・日付・請求番号など、アラートの有無にかかわらず人が確かめる項目を決めておきます。
- 取引先の請求書の書式が変わると、読み取りの誤りが増えます。新しい書式の請求書が届いたら、最初の数回は人がすべての項目を確かめます。
- インボイス制度の登録番号のように、毎回確かめる項目が決まっているものは、読み取る項目に入れておくと確認の手間が減ります。
- 勘定科目の判断は、会社ごとの経理の規程によって変わります。AIには自社の科目の使い分けの例を渡し、判断に迷う請求は人に回します。
- アラートの条件が厳しすぎると、印が増えて見なくなります。アラートの件数と、実際に直した件数を見比べて、条件を直していきます。
- メールで受け取った請求書のPDFは、電子帳簿保存法の電子取引のデータとして保存の要件があります。取り込みの仕組みとは別に、保存の方法を税理士に確認しておきます。
- 請求書には取引先の情報が含まれます。使うAIサービスでのデータの扱いを、自社の契約形態に照らして確認します。
自社で始めるなら最初の一歩
最初は、少ない枚数の請求書で読み取りを試し、手で入力した記録と見比べるところから始めます。読み取りの精度と、人が確かめるべき項目が分かります。
- 先月分の請求書のPDFを10枚ほど1つのフォルダに集め、AIに取引先・金額・日付・内容を一覧にさせる
- 手で入力した記録と見比べ、読み取りを間違えやすい項目と、人が毎回確かめる項目を決める
- 会計ソフトに取り込める形式への変換と、アラートの条件づくりに進む
担当者より
この支援で意識したのは、請求書の読み取りと会計ソフトへの取り込みを仕組みにするのと合わせて、異常値をAIのアラートで知らせる形にすることでした。手を動かす作業が減っても、桁違いや二重請求のような、見落とすとお金に直結する誤りは、アラートとして目に入るようにしています。
空いた時間を、予算管理や財務分析に使えるようになったことも、この支援の大事な点だと考えています。入力の作業から、数字を読んで経営に返す仕事へ。経理の時間の使い方そのものを変えることを目指しました。
株式会社クロスタ 担当コンサルタント